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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)4448号 判決 1980年2月28日

原告

駒井悦子

ほか三名

被告

西浦巌

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告駒井悦子に対し、金一七八万三四七三円、原告岡嶋田鶴子、原告野口照代、原告麻玲子に対し、各金七四万五六四九円宛および原告駒井悦子の内金一六一万三四七三円、その余の各原告の各内金六七万五六四九円宛に対する昭和五四年一月一八日から各支払済まで各年五分の割合による金員を、各支払え。

二  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告駒井悦子と被告らとの間に生じたものはこれを一〇分し、その二を同原告の、その余を被告らの各負担とし、その余の各原告と被告らとの間に生じたものはこれを二分し、その一を同各原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告駒井悦子に対し、金二二三万二八七八円、原告岡嶋田鶴子、原告野口照代、原告麻玲子に対し、各金一四八万八五八五円宛および原告駒井悦子の内金二〇三万二八七八円、その余の各原告の各内金一三五万五二五二円宛に対する昭和五四年一月一八日から各支払済まで各年五分の割合による金員を、各支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの各請求をいずれも棄却する。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五四年一月一七日午前二時頃

2  場所 奈良県五条市本町一丁目九番一五号先道路(国道二四号線)上

3  加害車 普通乗用自動車(奈五五わ第五、二六六号)

右運転者 被告清志

右所有者 被告巌

4  被害者 訴外亡駒井秀男(本件事故当時、満六三歳)

5  態様 直進歩行中の訴外亡秀男を、その後方から進行して来た加害車が、跳ね飛ばした。

6  結果 頭蓋骨々折に基く脳損傷により即死した。

二  責任原因

1  被告巌(運行供用者責任、自賠法三条)

被告巌は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

2  被告清志(一般不法行為責任、民法七〇九条)前方不注視および制限速度(時速三〇キロメートル)に違反して時速約一〇〇キロメートルで走行した過失

三  損害

1  逸失利益―合計金九四四万八六三六円

(1) 計算

訴外亡秀男は、本件事故当時、雑貨商を営んでおり、少くとも昭和五二年度の賃金センサスに七%を付加した程度の収入を得て、妻の原告悦子を養つていた、満六三歳の男子であり、あと七年間は就労可能であつた。そこで生活費の控除割合を三割とした上、新ホフマン式により中間利息を控除すると、次の算式のとおり、金九四四万八六三六円となる。

算式(一四万六七〇〇×一二+三八万七二〇〇)×一・〇七×〇・七×五、八七四≒九四四万八六三六

(2) 原告らによる権利の承継

原告らは、訴外亡秀男の妻(原告悦子)ないし実子(その余の各原告)として、訴外亡秀男に帰属した右1(1)の損害賠償請求権を法定相続分(原告悦子は三分の一、その余の各原告は各九分の二宛)に従い、各相続した。

2  葬儀費―合計、金五〇万円

3  慰藉料―合計、金一〇〇〇万円

前記のとおり、原告悦子は訴外亡秀男の妻、その余の各原告は訴外亡秀男の実子であるから、各金二五〇万円宛が相当である。

4  弁護士費用―合計、金六〇万円

四  損害の填補

原告らは、自賠責保険金として、合計、金一三八五万円を受領した。

五  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(但し、遅延損害金は、各弁護士費用を除外した各内金に対し、本件不法行為の日の翌日から民法所定の各年五分の割合による。)を、求める。

第三請求原因に対する認否

(被告ら)

請求原因一項1ないし5の各事実、同三項1(2)中の身分関係および相続の事実、四項の事実をいずれも認め、一、三項中のその余の各事実はいずれも不知である。

(被告巌)

請求原因二項1の事実を認める。

(被告清志)

請求原因二項2の事実を否認する。

第四被告らの主張(過失相殺)

訴外亡秀男にも、前記道路の中央を歩行していた過失が存するので、過失相殺されて然るべきである。

第五被告らの主張に対する原告らの答弁

争う。

第六証拠〔略〕

理由

第一事故の発生および責任原因

請求原因一項1ないし5の各事実はいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六、第七号証を総合すると、同一項6の事実を認めることができ、これに反する証拠はなく、また、同二項1の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第九号証の一ないし三、同第一〇号証の一ないし四(但し、同号証の一および三については、後記採用しない部分を除く。)、同第一一号証を総合すると、被告清志は、居眠運転および時速三〇キロメートルの制限速度に違反(時速約七〇ないし八〇キロメートルで走行)した過失により、本件事故を発生させたものであることを認めることができ、これに反するかのような同第一〇号証の一および三の各一部ならびに被告西浦清志本人尋問の結果は、前掲証拠と対比し、いずれも採用ないし措信せず、他に右認定に反する証拠はない。

そうすると、被告巌には、自賠法三条により、被告清志には、民法七〇九条により、いずれも本件事故に基く各原告の各損害を賠償する責任がある。

第二損害

1  逸失利益―合計、金六九九万〇四一七円

(1)  計算

年収―原告駒井悦子本人尋問の結果によると、訴外亡秀男は、本件事故当時、親戚筋の訴外駒井俊株式会社(雑貨等の卸小売業の会社)に勤務し、少くとも、年収、金一七〇万円程度を得ていたことを認めることができ、これに反するかのような甲第八号証は、前掲証拠と対比し、採用せず、他に右認定に反する証拠はない。因に、原告ら主張の賃金センサスは、実収入の立証が不可能な時等に使用すべき統計資料にすぎないから、本件の如く、原告らによりその立証がなされている場合には、これを用いるに由なきに帰したもの、というほかない。

生活費の控除割合―原告駒井悦子本人尋問の結果によると、訴外亡秀男は、本件事故当時、妻の原告悦子と共に生活し、その世帯主であつたことを認めることができ、これに反する証拠はない。そうすると、生活費の控除割合は、三割とするのが相当である。

就労可能年数―訴外亡秀男が本件事故当時満六三歳であつたことは、当事者間に争いがなく、その平均余命の二分の一が、原告ら主張の七年間を越えることは、公知の事実であるから、訴外亡秀男の就労可能年数は、原告ら主張のとおり、右七年間とするのが相当である。

ホフマン係数(小数点第五位以下切捨)―五・八七四三

算式 一七〇万×〇・七×五・八七四三≒六九九万〇四一七

(2)  原告らの相続した分―請求原因三項1(2)中の身分関係および相続の事実は、当事者間に争いがない。したがつて、原告悦子は、右逸失利益の三分の一を、その余の各原告は、右逸失利益の各九分の二宛を各相続したことになり、各原告の各逸失利益は、次のとおりとなる。

原告悦子―金二三三万〇一三九円

その余の各原告―各金一五五万三四二六円宛

2  葬儀費―合計、金五〇万円

弁論の全趣旨によると、原告悦子が訴外亡秀男の葬儀を施行し、その全費用を支出したことを認めることができ、これに反する程の証拠はない。しかして、右費用については、原告ら主張の金五〇万円をもつて、相当額と考える。

3  慰藉料―合計、金一〇〇〇万円

前記認定の本件事故の態様、訴外亡秀男と原告らとの身分関係、その他諸般の事情を総合考慮すると、総額として金一〇〇〇万円、内訳として次の金額が、各相当である。

原告悦子―金三四〇万円

その余の各原告―各金二二〇万円宛

4  合計

原告悦子―金六二三万〇一三九円

その余の各原告―各金三七五万三四二六円宛

第三被告らの過失相殺の主張について

被告らの主張(過失相殺の主張)については、甲第一〇号証の一および三ならびに被告西浦清志本人尋問の結果中には、これに沿う部分があるものの、これらは、同第九号証の一ないし三、同第一〇号証の二および四、同第一一号証等と対比し、いずれも採用ないし措信せず、他に右主張を認めるに足る証拠は、存しない。したがつて、被告らの過失相殺の主張は、理由がない。

第四損害の填補

請求原因四項の事実は、原告らの自認するところであるから、各原告の各損害額合計から、右填補分を差し引く(但し、その割合は、法定相続分の割合により、その内訳は、次の1のとおりとなる。)と、残損害額は、次の2のとおりとなる。

1  填補分

原告悦子―金四六一万六六六六円(円未満切捨)

その余の各原告―各金三〇七万七七七七円宛(円未満切捨)

2  残損害額

原告悦子―金一六一万三四七三円

その余の各原告―各金六七万五六四九円宛

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告悦子の弁護士費用は、金一七万円、その余の各原告の各弁護士費用は、各金七万円宛とするのが、各相当である。

第六結語

よつて、原告らの本訴各請求は、いずれも主文の限度で理由がある(なお、遅延損害金は、各弁護士費用を除外した各内金に対し、本件不法行為の日の翌日である昭和五四年一月一八日から各支払済まで民法所定の各年五分の割合による。)から正当として認容し、原告らのその余の各請求はいずれも理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳澤昇)

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